インタビュー

<若手教員インタビュー>
凄い人達と出会える応化

応用化学専攻には研究室を主催する教授以外にも多くの若手教員が在籍し、研究・教育に携わっています。
今回は伊東研の森本 祐麻助教を訪ねて、研究内容や応用化学専攻の学生、さらにはご自身の失敗体験についてお話をお聞きしました。
(以下、森本先生のコメントです)

応用化学専攻伊東研 助教 森本 祐麻
大阪大学工学部応用自然科学科卒業、工学研究科生命先端工学専攻博士後期課程修了、大阪大学リーディング大学院教員を経て2017年に生命先端工学専攻(後に組織改編で応用化学専攻) 助教。工学博士。
M1で(梨花女子大学/韓国)に、D2でワシントン大学(米国/シアトル)に留学。

韓国留学がきっかけで博士後期課程へ

私は阪大工学部応用自然科学科卒業後、大学院の修士課程に進みましたが、最初は「修士課程を卒業したら就職かな・・」ぐらいの感じでした。その後、M1のときに留学させてもらった韓国で、言葉は通じない中でも、サイエンスを通じてぐっと仲良くなれる。「研究っていいな」と思った。そんな体験がきっかけで、博士後期課程に進むことにしました。

博士後期課程で学位を取得した後は、阪大の未来戦略機構という組織に所属。リーディング大学院での教育業務のかたわら、伊東研で研究をやるようになりました。留学先の研究室からも「ポスドクで来ないかと」オファーをいただいたのですが、できるだけ早くから学生たちの教育や研究に携わるほうが将来のキャリアに活かせると判断して、阪大に残りました。その後、2017年から伊東研の助教として研究・教育に取組んでいます。

めっちゃ切りにくいC-H結合の謎に迫る

私の研究対象は触媒です。触媒の開発や触媒反応の中間体を捕まえて反応機構を解明する研究を進めています。

伊東研では主に天然ガスなどに含まれているメタン(CH4)をメタノール(CH3OH)に変換する研究が行われています。アルカン(メタン、エタン、プロパン・・)は有機化学の教科書の最初に出てくるのに、合成化学的に利用できないので、有機化学的にあまり興味を持たれていません。これを私達は、合成化学に活用する道を探っています。

具体的には、複雑な反応段階を経ることなく、シンプルにメタンのC-H結合を切ってOを入れて、より使いやすいメタノールに変換しようとしてます。

反応式にすると非常にシンプルです。

2CH4+O2→2CH3OH

この反応は、アメリカ化学会の会報「C&E N(シー・アンド・イー・ニュース)で90年代に「人間がなんとか達成したい10個の触媒反応」、つまり「夢の触媒反応」として紹介されるほど難しい反応です。残念ながら、90年代から30年後の今でも実現できていないのですが。我々は「やはりメタンは安定していて反応性が乏しい・・」と思考停止せずに、なんとかこの酸化反応を実現しようとしています。

実は熱と圧をかけて条件を整えたら、メタンをメタノールに変換できることはできるのですが、メタノールで止まらずにCO2まで一気に酸化が進んでしまう。酸化反応を途中で止めるのが難しい。でも自然界の酵素にはそれができているから、理論的にはできるはずなのです。それをなんとか達成したい。我々が知らない原理による部分が、まだかなりあるのかなと思っています。

最近は逆に「なぜC-H結合は、めっちゃ切りにくいのだろう?」という謎に興味を持ち始めています。結合の強さだけで説明できない要素がある気がしています。そこを解明して、将来、教科書に載るような原理を見出せれば嬉しいですね。

最終的な目標は「教科書の1ページ」になるような研究を行うことです。

ヒントは異分野に隠されている!?

ところで、研究では当該分野でよく知られた手法とか、注目を集めている考え方だけでは、自分の切り口がなかなか出せないことが多い。ちょっと違った分野の方法論とか、自分の研究と関係ない学会発表や論文に触れていくと、結構ヒントを見つけられます。自分だけでゼロから全てを考えられたら素晴らしいのですが、かなり壁が高い。私は異分野の知識や考え方のフレームをうまく応用するスタイルで研究を進めています。

学生のうちに一緒に失敗しよう!!

応用化学専攻の学生には粘りがあります。厳しい受験を経験してきていますから、精神的な体力がついているんでしょう。ちょっと結果が出ないぐらいではへこたれない。研究で壁にぶつかって、その先にゴールが見えていない状況でも走れるタイプが多いです。走り出さないと、やっていることの価値なんてわからないですから。とりあえず走れるというのは、時間の限られた大学院生としてはイイ傾向だと思います。

もちろん気になる点もあります。

優秀でガッツもあるのに、自分のポテンシャルの高さを信じ切れていない学生が結構いる。「自分のレベルはこの程度」と線をひいているので、目標を示されたら一生懸命やって実際にできてしまうのに、勝手に挑戦しようとしない。「博士号をとって国際的に活躍するって、カッコ良くない?」と学生に水を向けても、「イヤイヤ自分はそこまで考えてない・・」という返事が多い(苦笑)。ちょっと残念。

以下は、ハーバード大学の学内新聞で学生向けに書かれた記事で印象に残っている部分。

「もしかしたら皆さんは、あんまり失敗したことがない人生を送ってきているかもしれないが、それは、君たちが挑戦をしてこなかったことの裏返しだ。だから、大学では失敗を恐れずチャレンジして、成功するかどうかわからないことをやるべきだ」。

失敗経験のないことが、むしろ恥ずかしいぐらいに感じないと、それ以降のキャリアでジャンプできないと思います。もちろん、8割、9割の確率で失敗しそうなことはやる必要はないですが、挑戦し続けることで、「ここから先に進んだら危ないぞ」という嗅覚を磨くことにつながります。この感性は定量化できるものじゃない。私は学生と一緒になって、成功や失敗の匂いを感じるような経験を積んでいくことで、学生の成長につなげたいと思っています。

私の大いなる失敗談

せっかくなので、私の失敗談をご紹介しましょう。

学生のときに、非常に壊れやすいけれども前例のない性質を持った化合物をつくり、論文で発表することができました。しかし、研究室にあまりノウハウがなかったため、自分のスタイルで強く推し進めた実験が含まれていたのです。後日、同じ分野の研究者が、その化合物についてより詳細に調べ直した内容の論文が発表されました。そのことで私の実験系の新規性が損なわれることはありませんでしたが、他の研究者からの指摘は手痛い教訓となり私の心に残りました。

新しいことを追求するほど、比較する例が少なくなっていき、頼れるのは自分だけのこともあります。このとき、私の実験系のことをよく分かっている専門家が世界にいたのは、とても幸運でした。科学が厳しい議論の積み重ねであること、模範解答がないところに道をつけられるのが一流研究者だということを学んだ貴重な経験でした。私はこの失敗をきっかけに、測定系についてそれまで以上に深く習得するようになりました。
後日、ハワイで行われた学会でその研究者とお会いする機会があり、随分といろいろな言葉をいただいて、「チャレンジしている若者を年上の実力者はよく見ている」ということも知りました。

余談ですが、その学会の帰りの予約便を間違えて、学生の私一人だけがハワイに居残って2泊余分に滞在してしまいました。これは挑戦の結果ではなく、単なる不注意による失敗でしたが、それからは同じような失敗はしなくなりましたね(笑)。

岡山人から見た大阪人

大阪の人は厚かましいとかTVでよく言われていますが、人との距離のとり方がとても上手だと思います。初対面の相手にもバ〜ッと話しかけてくるのですが、「これ以上はイヤだな」と相手が思う境界線をよく心得ていて、それ以上は入ってこない。人口密度が高いからでしょうか、相手との距離のとり方が絶妙で、コミュニケーションが洗練されている印象が強いです。

凄い人材が揃う応用化学専攻

私は岡山から「田舎の大将」として阪大に来ました。しかし入学してからは、「こんなことを考えている同級生がいるのか!」と、友人の志の高さに驚かされることが多かったですね。それは教員になってからも同じで、「この人、凄いな!」という先生が本当に多い。そういう先生方と一緒に仕事をすると、自分の思い描いていたゴールの「さらに先」や、全く違ったゴールが見えたりします。十人十色の個性を持った先生方との交流は、本当に価値があります。皆さんの美味しい部分をイイとこ取りしつつ、自分の個性も磨いていきたいと思っています。

想像以上に成長できる応用化学専攻で一緒に研究しましょう!

阪大の応用化学専攻は「人の努力を笑わず、真剣に一緒に走ってくれる」、そんな学生や教員がいる環境です。

もっと成長したい、もっと上の世界が見たい、そういう志を持った学生に来ていただけたら、想像以上に成長でき、想像もしなかったキャリアパスが見えてくるはずです。

あとは、「やってやろう!」と飛び込む勇気だけ。

自分が思っている以上に成長できるので、勇気を持って飛び込んで欲しいです。

そして、できれば博士後期課程まで進んで欲しい。2年じゃ足りないと思います。修士課程だけでは、研究に手応えを感じて大きな目標が見えてきたと思ったら就職が決まってしまう。その先には自由な研究ができる環境があるのに、修士課程の2年間だけでは勿体ないと思います。

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