インタビュー

博士後期課程卒業生に聞く
「それぞれの国のアカデミアでさあスタート!」

大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻
博士後期課程3年 

菅原 章秀(宇山研) 
WEN HANYU(宇山研) 中国の西北大学博士前期課程修了後、阪大応用化学専攻博士後期課程に入学。中国出身。

3月24日大阪大学大学院工学研究科の博士学位記授与式が行われました。宇山研の同級生博士後期課程学生として切磋琢磨し、博士(工学)学位を取得された卒業生のお二人にお話をうかがいました。

進路は?

菅原■
宇山研の特任研究員として研究を続けていきます。
民間企業にも興味はあったのですが、若い学生たちと一緒に頑張って面白い研究をしたいと思い、アカデミアで研究を続けることに決めました。日本ではアカデミアで研究を続けるには、まず自分の指導教官に相談するというのが一般的なスタイルなので、宇山教授に相談して研究室に残ることになりました。正式に採用が決まったのは2022年に入ってからです。

WEN■
阪大応用化学専攻博士後期課程修了後は中国に戻り、大学で研究者として研究を続けます。私は父母とも高校の先生で、父は化学専門、母は中国文化専門です。その影響もあって高校時代から先生になりたいと思っており、夢を叶えることができました。

阪大の応用化学専攻に進んだきっかけは?

菅原■
高校の化学はパズル感覚が楽しくて、有機化学に興味を持ちました。ただ、大学受験のときにはまだ専門分野を絞ることができなくて、応用自然科学科を選びました。他大学にように入試の時点で、専門を選ぶ必要がなかったことに魅力的に感じたことを覚えています。入学後、物理計算が苦手であったり、「化学は世の中のこと全てに関わっていて、物質全てが原子・分子でできているから、化学に行ったら就職には困らないだろう」と思ったりして、化学の道に進みました。あまり夢のない現実的な選択でしたね(笑)。

WEN■
西北大学とコネクションがある外国の先生は何人かいらっしゃったのですが、その中で宇山先生の研究が一番面白そうで、宇山先生本人が一番優しそうだったので阪大に留学することにしました(笑)。
宇山研のメンバーはとても親切で、大阪ではすごくリラックスして過ごすことができ、中国の大学での生活環境とはあまり違いを感じませんでした。

ご自身の博士論文のテーマについてご紹介ください。

菅原■
ホスト–ゲスト包接錯体を組み込んだ機能性ハイドロゲルの力学応答に関する研究
シクロデキストリンという環状分子の環の外側は親水的なのですが、内側は疎水的なので、水の中で特定の疎水性分子を環の内部に取り込むような作用を持っています。この作用をホストゲスト相互作用といい、これを架橋点としてハイドロゲルを作ると、材料に力を加えたときに、環とそれに取り込まれている物質との間の弱い結合が切れて構造が変わります。私はこの現象に着目し、透明だったものが白く濁る見た目が変わるゲルを作りました。応力(ストレス)がかかったかどうかを色の変化で知ることができるのです。材料に何が起こっているのか見た目で判断できるような機能を持たせて、材料の高寿命化に役立つ技術を開発してきました。これまでは人工的な高分子で研究を進めてきましたが、今後セルロースなどを使っていけば、環境調和型の材料の開発につながるはずです。

WEN■
「緑茶抽出物を用いた多機能性複合材料の開発」
緑茶から抽出したポリフェノールと高分子材料を組み合わせ、抗菌性と抗酸化性などの機能を有する材料を開発する研究を進めてきました。ポリフェノールとはベンゼン環に水酸基(−OH)が複数結合したフェノール類を含む物質の総称で、抗酸化作用を持っています。
元々はゴミとして捨てられていた緑茶の茶葉の出がらしを有効活用して、機能性材料をつくる研究です。こういう材料は有機合成でつくることは可能なのですが、食品包装剤のように、人の口に入るような用途には向きません。天然由来のものからつくった材料の方が産業界での応用展開につながりやすいと考えました。
抗菌性と抗酸化性をいかした食品包装材分野への応用を期待しています。また、pHが変わるとフィルムの色が変わる特性(pH応答性)により、食品の劣化具合を包装材の見た目で判断できる可能性もあります。pHセンサー機能を有する包装材です。

博士論文発表の感想は?

菅原■
発表30分、質疑応答30分の発表でしたが、この1時間はあっという間でした。 自分とは異なる視点からの質問をたくさんいただき、「気付き」が多かったですね。私はマクロな視点から材料の力学物性などに着目してきたのですが、もっとミクロな視点からの分子間相互作用などについての質問が多かったです。充分に答えることができなくて少し悔しい思いもしましたが、今後の研究にも役立ちそうな視点に気付かせていただけた貴重な体験でした。

博士(工学)の学位記を手に笑顔の菅原さん

WEN■
発表前はとても緊張しましたが、本番では緊張しなかったですね。さまざまな質問をいただきましたが、半分ぐらいは想定内の質問でした。私も発表の1時間は、あっという間で短く感じました。

M2卒業生とパシャ!
宇山研女子とパシャ!

研究室生活での生活や一番の思い出は?

WEN■
研究以外で楽しかった思い出は、日本のいろいろな場所に出かけたことです。特に京都の町が一番好きです。私の出身地である西安も唐の時代にできた町で、両方とも歴史が感じられます。 それと、自分が好きな美味しいものを食べたいから、毎晩夜遅くに一生懸命料理していたことを覚えています。(笑)和食も美味しいですね。特におでんと天ぷらが好きです。

友達と奈良へ鹿に会いに行きました。かわいい!!

菅原■
そうそう、留学生さんたちは、よく美味しそうな料理をつくって研究室に持ってきていました。お昼にレンジでチンして食べるのですが、その美味しそうな香りをかぐたびに心から羨ましかった(笑)。気軽に「ちょっとちょうだい」とは言えないレベルのお料理でした。
そんな私の一番の思い出は、3月中旬に私の博士後期課程修了を留学生の皆さんが手料理で祝ってくれたことです。タイ、スリランカ、ベトナム、フィリピン、中国、各国の美味しい料理を堪能した人生最良の愛に満ちた時間でした(笑)。嗚呼、この時間がずっと続いて欲しい・・と心から思いました! 研究室の留学生たちとは研究だけでなく、盆休みに遊びに行ったりしました。淡路島に行って、シーカヤックに乗ったことはいい思い出です。

宇山研の留学生たちと淡路島でシーカヤックに挑戦!

今後の抱負、やりたいことをお聞かせください。

菅原■
博士(工学)学位をとってようやくスタートラインに立てた感覚で、またゼロからのスタートが楽しみです。これから新しいテーマを探して、新しい発見をしたいです。研究で新しいことを見つけたときは本当に嬉しいし、その瞬間のために研究をやっているわけですから。
こんなチャンスを与えてくださった宇山先生に感謝です。

WEN■
中国に戻ったら研究テーマは多分変わると思いますが、これまで宇山研で取り組んできたグリーンケミストリーを発展させることが私の大きな夢です。今の緑茶の抽出物とバイオプラスチックの研究は良いテーマだと思っていますので、生物工学も取り入れて研究が進んでいけばいいなと考えています。

博士後期課程の良さは?

WEN■
博士後期課程の学生生活は、難しいことも楽しいことも多いです。学部生や博士前期課程の学生は、研究を楽しむとともに、良質な論文にこだわって研究に打ち込めば、素晴らしい将来が手に入るはずなので、博士後期課程に進んで課題解決能力を磨いて欲しいと思います。
将来、私に子供ができたら70%ぐらいの確率で博士後期課程に進むように薦めると思います。

菅原■
アカデミアの研究者を目指す方にとっては、ポスドクの後のキャリアパスがどうなるのかが大きな問題です。最近は自立した研究者になれるのかどうかが不安で、アカデミアを目指す人が減ってきているようですね。私ももちろん不安なのですが、どうしてもチャレンジしたい。というのも、自分で研究を一から立案して、それが論文になったときの感激は、本当になにものにも変え難いんですよ。

それと、一生使える肩書きとして、Ph.Dの価値は大きいと思います。私自身もそうですが、いつか海外で研究者として働いてみたいと思っている方にとってはなくてはならない肩書きです。

応用化学専攻の博士後期課程修了者。前列向かって右端は菅原さん、右から3人目がウェンさん。

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