インタビュー

博士後期課程修了生インタビュー
「おわん型化合物の応用研究に取り組んだ3年間」

大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程3年(2023年3月時点)

中澤 廣宣(櫻井研)
奈良工業高等専門学校(以下、奈良高専)専攻科→大阪大学工学研究科応用化学専攻入学

西本 真生(櫻井研)内部進学

3月23日に令和4年度大阪大学大学院の博士学位記授与式が行われました。ともに櫻井研で博士後期課程の研究生活を送ってこられたお二人に、工学部ギャラリーでお話をうかがいました。

クラシカルな装いでの博士学位記授与式(左から2人目が西本さん、右から3人目が中澤さん)

さまざまな可能性を秘めたおわん型化合物スマネン

西本■
私の博士論文のテーマは「ホモスマネン及びその誘導体の合成」で、おわん型分子のスマネンに関する研究です。スマネンはベンゼン環が組み合わさった通常の平面的な分子と違ってお椀型に歪んでいるので、平面的な分子には見られない性質を示す面白い分子です。例えば、おわんの内側と外側が反転するような挙動を示したり、結晶中で積層して半導体特性を示したりします。そんな炭素と水素でできているスマネンに窒素や酸素といったヘテロ原子を導入することで、その性質がどう変化するかを研究していました。実際に発光特性や半導体特性の変化に加えて平面的な分子では進行しないような反応が進行することも見出すことができました。このような研究を進めていけば、フラーレンやカーボンナノチューブといった高機能な湾曲ナノカーボン分子をスマネンの誘導体から選択的に合成したりチューニングしたりする可能性が見えてくるはずです。ただし、歪んだお椀型分子は反応性が高くて扱いづらく、そこにヘテロ原子を導入することが最近ようやくできるようになりました。まだまだ発展途上の研究分野です。

中澤■
博士論文のテーマは「芳香族求電子置換反応を用いたスマネン誘導体の合成」。私もおわん型分子であるスマネン関連の研究を進めてきました。この研究の最大目標はおわん型分子2つを合体させて、フラーレンを合成することです。炭素分子60個でできたサッカーボール型分子のフラーレンは歪みを持っているので、平面分子からつくるのはなかなか難しい。じゃあ炭素30個でできた半球構造つまりおわん型分子2つを合体(二量化)させればいいじゃないかということになります。しかし、これまでは二量化に適した炭素30個でできたおわん型構造の化合物をつくることができませんでした。そこで私は、炭素21個からできたスマネンを何段階か誘導することによって、炭素30個の椀型構造の分子をつくり、その二量化によるフラーレンの合成に向けた研究を続けてきました。スマネンからなんとか炭素30個の骨格をつくるところまでは到達できました。あとはどうやって二量化するかが残された研究テーマです。

お椀型分子2つを合体させてフラーレンへ

感想は人それぞれ・・・博士論文公聴会

西本■
博士論文の公聴会(口頭発表会)前は結構プレッシャーを感じていました。我々が所属する物質機能化学コースは研究テーマが幅広いため、質疑応答で出てくる質問がとても多角的で、あまり質問の予想ができません。だから、わからないことはわからないと腹を括るしかありませんでした。実際に本番がはじまってみると、発表時間(口頭発表30分、質疑応答30分)はそんなに長くは感じなかったですね。

中澤■
自分が3年間やってきた研究なので、どうにかなると思って公聴会に臨みました。わからないことはわからない、そういうものだと思っていました。西本君と違って、実際の発表時間は凄く長く感じました。特に質疑応答は長く感じて、「こんな質問が来るんだ!?」という感じでした(苦笑)。

研究成果や経済面の不安より研究への興味が勝って博士後期課程へ

西本■
私は博士前期課程修了後には就職しようと思っていて、M1の2月ぐらいに内定をいただいていました。その後、落ち着いて研究を進めていたのですが、M2の8月頃にドイツの共同研究先に一人で行くことになったのです。それで、ドイツの大学で1ヶ月間、現地の学生たちに混じって研究を進める中で、新しい分子を合成することにも成功して、「もう少し櫻井研で研究を続けてもいいかな」と思い始めたのです。明確な目的があったというよりは、卒業が3年先に延びても、自分の興味のあることをもう少しやってみたいと思いました。

ドイツの研究室ではD3の日本人留学生の方もいらっしゃって、博士号を取得するために凄くアクティブに頑張っておられた。その姿が自分の目にはすごくカッコ良く映って、博士号をとるのもいいかなと思ったのも進学を決めた理由の一つです。そんな状況でしたので、博士後期の入試も当然終わっており、自分一人だけ1月に二次募集で試験を受けて博士後期課程に進学しました。

中澤■
私はもともと研究者になりたいなと思っていたので、博士後期課程は意識していましたし、櫻井先生にもよく相談に乗ってもらっていました。実際はM1の3月ぐらいまでは悩んでいましたが、研究テーマが結構面白かったし、櫻井先生からも背中を押していただいたので、進学を決めました。

進学には不安もありました。
一つ目は、3年間で本当に3報論文を出せるのかという不安。応用化学専攻で博士号を取得するには、在学中に論文を3報出す必要があります。二つ目は経済的な不安です。
論文の方は、ギリギリでしたがなんとか間に合って、博士論文公聴会の当日に3報目がジャーナルにアクセプトされました。経済面では、1年目は奨学金を受給し、2年目からは学振※1に通ったので研究に集中することができました。

西本■
私は既婚だったので、経済面の心配がすごく大きかったです。D1の秋に次世代研究者挑戦的研究プログラム※2に採用され、経済的支援を受けられるようになるまでは本当に必死でした。論文3報というのも、結構不安でしたね。 でも、同じ研究室に同期の博士後期課程学生(中澤君)がいるというのはすごく心強かったです。

ポーランドでの国際学会の合間に、世界遺産のマルボルク城を訪れ、そのお城を背景にビールで乾杯

就活スタートは遅かったですが化学人材ニーズの間口は広い!!

中澤・西本■
二人とも民間企業に就職します。化学系のメーカーです。

西本■
就活はD2の11月か12月からスタートしました。一応、教授推薦という形式なのですが、他の博士学生達も教授推薦をもらっているので、推薦をもらったから合格できるとは限りません。なので、普通に企業にアプローチし、一般的な就活を行いました。最終的には、D3の2月ぐらいに内定をいただきました。

中澤■
私も周りからは「遅いっ!」て言われましたが、D2の2月に就活をスタートしました。10社以上にアプローチして、D3の7月に決まりました。

西本■
実は、私たちが就活をスタートしたのは結構遅くて、D2の10月や11月に内定をもらってる学生が結構いました。それを聞いて「なんか他の人達、もう就活やってるらしいで・・」とか2人で話して、就活を始めた感じでしたね(笑)。

化学という研究分野は、食品、医薬品、化学品など関連産業分野が多いので、博士学生の就職面では受け口が広くて、これからも有利だと思います。

社会に出る抱負は?

中澤■
朝9時に出社して定時に退社して、その時間の中でしっかり研究成果を残したいですね。そして会社を出て自宅に帰ってからは、ゆっくり自分の時間を使いたいです。櫻井研はそれぞれの学生の裁量に任されていたので、研究室にいる時間はそんなに長くはなかったですが、残ろうと思ったらずっと実験ができたので、ついつい遅くなるんです。時間を有効に使えるようになりたいです。

西本■
今まで学生生活が長かったので、社会人になったらバリバリ稼ぎたいですね(笑)。
しっかり働いてお金を稼いで、自分の家庭に貢献したいです。
企業に入ってからはどのような仕事をするかはまだ分かりませんが、大学とはまた違った切り口で化学に取り組めることは楽しみですね。

研究室での追い出しコンパにて櫻井教授にお世話になったお礼のお酒をプレゼント!櫻井教授が嬉しそう。

※1 学振:日本学術振興会の「特別研究員制度」のこと。特別研究員に採用されると、一定の経済的支援を受けることができます。
日本学術振興会の「特別研究員制度」について詳しくはこちら
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/20_tokushourei/download.html

※2 次世代研究者を育成することを目的とした制度。プロジェクト生は特別なプログラムに参加でき、一定の経済的支援を受けることができます。
次世代研究者挑戦的研究プログラムについて詳しくはこちら
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/education/jisedai

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