インタビュー

0から1を生むそんな研究を突き詰めたい

応用化学専攻には研究室を主催する教授以外にも多くの若手教員が在籍し、研究・教育に携わっています。今回は古川研の中谷勇希助教を訪ねて、研究内容や応用化学専攻の学生についてお話をお聞きしました。
(以下、中谷先生のコメントです)

応用化学専攻古川研 助教 中谷勇希
北海道大学工学部応用理工系学科応用化学コース卒業、同大学院総合化学院分子化学コース博士後期課程修了、2024年1月より現職。博士(工学)。

学部時代は美術部で陶芸三昧

私は北海道の出身で、大学は学部・大学院ともに北海道大学でした。休みには旅行に行ったりする割と普通の学生でしたが、学部生の頃は美術部に入って陶芸をやっていました。大学1年のとき、友達と「陶芸教室に行ってみよう!」という話になって、実際に行ってみたらすごく面白かったんです。それで、大学でそういうことができるところはないか調べてみたら、美術部に陶芸部門を発見しました。早速見学に行ってみたら、残念ながら陶芸をやっている部員がいないことがわかったので、それじゃあと自分が美術部に入部して陶芸部門を復活させました。そんな経緯で、学部時代は美術部で陶芸を自由気ままに楽しんでいました。

そのときはもちろん意識していませんでしたが、不思議なことに陶芸は今の研究と繋がっているんです。陶芸ってセラミックスなのですが、今の研究で触媒の土台に使っているのもセラミックスなんですよね。

コロナ禍の博士課程生活では合金触媒の合成に没頭

高校生の頃、化学で最初に興味持ったのは光触媒だったのですが、大学入学後に合金触媒が面白そうだなと思って、合金触媒を扱っている研究室に進みました。大学院の博士課程では規則的な合金で作った触媒の研究をしていました。合金をいかにうまく制御して作るかがポイントで、そこで独自性を出そうとしていました。特定の既存の反応に対して、性能の良い触媒をどんどん開発していく、そんな研究でした。

博士課程のときはコロナ禍とかぶってしまい、海外への留学とかはできませんでした。国際学会へ参加する予定もあったのですが、それも全部流れてしまい、D2の冬になって、ようやくシンガポールでのシンポジウムに参加することができました。

その後、2023年5月に北海道大学で指導いただいていた古川先生が、阪大の工学研究科応用化学専攻の教授に着任して研究者を公募されたので、それに応募して2024年1月に私も阪大に助教として着任しました。

合金触媒でアルカン脱水素反応の炭素副生を阻止

私の研究テーマは、何かの反応に対してより良い合金の触媒を開発することです。今はアルカンの反応、特にプロパンからプロピレンをつくる反応を中心に据えています。プロピレンはポリマー原料なのですごく需要が大きいのですが、最近は供給が需要に追いついてない状況なので、それを改善する新たな技術としてこの反応に注目しました。

一番性能が良いのは白金系触媒ですが、それでも反応温度が高温のため、副生成物の炭素が表面に析出してすぐに触媒がダメになってしまいます。つまり反応中の炭素生成をとにかく抑える必要がありました。これに対して、母体材料である規則的な合金の上に鉛をのせるアプローチをすることで、従来の論文よりも遥かに耐久性が高い(長時間使える)合金触媒をつくり出すことに成功しました(以下イメージ図参照)。

合金触媒の表面の様子

実際の工業プラントでは、できるなら何年も使える触媒が求められます。工業的には触媒の耐久性はとても大事な要素なのです。

また、最近では、メタンという非常に安定した分子をエタンに変換する研究を始めています。メタンのC-H結合を切るにはすごく高温が必要になります。なので、生成したエタンから炭素ができて触媒表面に析出してしまう。なので、私はこの反応をより温和な条件で実現するための合金触媒の開発に取り組んでいます。 さらに、カーボンニュートラルを見据えてCOや CO2有効利用に使える触媒開発にも挑戦しています。

これらとは別に、合金のナノ粒子をつくるための新しい手法の開発も進めています。これまで同じような手法が使われ続けてきたのですが、私は合成方法そのものをいろいろ試して、従来の手法だったら絶対つくることができなかったナノ粒子づくりにチャレンジしたりしています。

研究に入ってくる初期能力が高い阪大生

阪大の応用化学専攻に着任してまず感じたことは、教育熱心な先生が多くて、学部の授業がとても手厚いんだろうなということ。というのも学生たちは化学の基礎がしっかりで身についていて、研究室に配属されてから研究に入る初期能力がすごく高い。

例えば、反応を理解するにしても、単純に知識を詰め込むのじゃなくて、そのバックグラウンドをしっかり考えるような指導を受けているはずです。基礎がしっかりしているので応用もきき、自分でいろいろ考えることのできる学生をみていると、先生方の授業での頑張りがすごく伝わってきますね。

2024年4月の古川研新歓コンパ(中谷先生は左端)

関西弁が聞こえてこない吹田キャンパス!?

これは余談なのですが、一部の先生を除いて「これぞ関西弁!」という喋りを、吹田キャンパスではあまり聞きませんね。私はNHKの朝ドラ「カーネーション」のパワフルな関西弁の印象が強かったので、少し意外でした。 でも、応用化学専攻には面白い先生が多いです。

アクセスの良さが魅力の大阪でサイゼ初体験

大阪という地域は交通の便が良いのが魅力ですね。どこ行くにしてもJRや私鉄でフラッと出かけられて、いろいろな文化や食べ物を楽しむことができます。食べることが好きな私には嬉しいポイントです。ちなみに北海道はちょっと広すぎて、文化や風土が違う場所まで旅行するのはひと苦労なんです。

大阪で人生初サイゼリア体験ができたのも嬉しかったですね。北海道にもローカルチェーンの飲食店はいろいろあるんですけど、よく名前を聞く全国チェーンで身近じゃないものも多いんです。行ったことのないチェーン店に入るのも大阪での楽しみの一つです。

今後は、0から1を生む研究を!!

これまではアルカンの脱水素反応など、既存の反応系をどう改善していくかというところでうまく結果を出せていました。もともと1があってそこを高めていく研究です。今後は実現できそうもない難しい反応の実現に挑戦するような、0から1を生む研究をやってみたい。そして人とは違う新しい「軸」をずっと突き詰めて、何かに対して突出した研究者を目指したいです。

例えば、持続性が低い貴金属触媒を完全に代替できる持続性のある触媒の開発です。安価なセラミックスや金属で貴金属の代替触媒を開発できたら素晴らしいですね。非常に難しいことですが、それを実現できる、それもゼロから、そんな研究に挑戦したいと思っています。

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