インタビュー
大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻
鳶巣研 博士後期課程2年 白木 椋大さん
留学先:ドイツ アーヘン工科大学 ダニエル・レオノリ教授
留学期間:2025年 4月〜6月
鳶巣研 博士後期課程2年 向井 虹渡さん
留学先:ドイツ マックスプランク石炭化学研究所 ジョセフ・コルネラ先生
留学期間:2025年 4月〜6月
鳶巣研 博士後期課程2年 山村 志悟さん
留学先:イギリス オックスフォード大学 ダレン・ディクソン教授
留学期間:2025年 6月〜8月
応用化学専攻の博士後期課程に在籍する学生のほとんどが、欧米を中心とした世界各地での短期留学(主に3ヶ月程度)を経験します。
今回は、偶然同時期にヨーロッパに滞在していた、鳶巣研の仲良しD2トリオの留学生活についてご紹介します。
(以下、学生さんたちのコメントです)

それぞれの想いを胸に・・・いざ欧州へ
向井◼️

もともと鳶巣研では有機ガリウム錯体を用いた光駆動レドックス反応に関する基礎研究を進めていました。希少な金属を使わない、エネルギーの低い可視光での新反応開発です。
学部4年に論文を読んでマックスプランク石炭化学研究所(ドイツ)のコルネラ先生の研究に関心を持っていたのに加え、私がM2のとき阪大応化に来られた際の講演を聴いてぜひ先生の研究室に留学したいと思うようになりました。私は13族元素であるガリウム錯体を扱っていて、コルネラ先生は15族元素であるビスマス錯体を研究されていましたので、他の族の典型元素を学ぶ良い機会になると考えたのです。鳶巣先生から申し込んでいただいた結果、1日、2日のうちに返事がもらえ、留学できることになりました。

山村◼️

私は希少金属は使わずにリンを触媒に用いて、世界中で誰もやったことのない新しい反応開発を目指してきました。最近では、材料系に応用できそうな新しい重合反応の研究も始めています。
せっかく留学するなら、鳶巣研ではやられていない全く新しいことにチャレンジしたい気持ちがありました。いろいろ論文を読んで調べた結果、オックスフォード大学(英国)のダレン・ディクソン教授の不斉合成や全合成の研究が面白そうだったので留学を申し込みました。ただ、申し込んだのがクリスマス休暇だったこともあり、2週間ほど何の返事ももらえずにかなりヒヤヒヤしました(笑)。最後はオックスフォード大学の他の先生から繋いでもらって、なんとか手続きを進めることができました。

白木◼️

鳶巣研ではポリマーのケミカルリサイクルを研究しています。具体的には、ポリアミドをつくる際に配向基を仕込んでおいて、ルイス酸触媒を用いたアミド結合(C―N)の切断による分解を目指した基礎研究です。
修士課程のときに学会で聴いた講演や研究室ローテーションでの経験を通じて、「光反応」に興味を持つようになったので、留学は光反応が研究できるラボにしようと思っていました。応用化学専攻はアーヘン工科大学(ドイツ)と学生を交流させる取り組みを続けていたので、そこで光反応を研究しておられるレオノリ先生の研究室への留学を決めました。

それぞれに異なる研究環境
白木◼️アーヘン工科大学ではNMRは共通機器でした。有機化学分野でよく使うカラムクロマトグラフィーという装置に関しては、鳶巣研の2台は試料を自動装填できるのですが、留学先のものにはその機能がなくて手動でやらざるを得なかった。これが非常に面倒だったことを覚えています(笑)。他に光反応の装置で困ったことは特になかったですね。
向井◼️マックスプランクの研究環境は凄かったです。分析ひとつとっても、業務が細分化されていて、その分析に精通した専門家がいるんです。なので、研究室で難しい分析があると、その専門家に予約して相談に乗ってもらったり一緒に分析を行ったりしていました。実験や測定でやりたいことがすぐできる環境にあるんです。夕方6時にはさっさと帰って、休暇も頻繁にとるポスドクの人たちがしっかりデータを持っていたのも、こんな環境のおかげかもしれません。

山村◼️共通装置はものすごく豊富でNMRは十台ぐらいあり、阪大応化と同じぐらい充実していました。各装置の技師さんも2-3人おられ、分業化が進んでいて効率的に研究を進める環境が整っていました。
留学先の研究で手にしたもの
白木◼️

アミノボランのHAT(水素移動反応)で生じたボリルラジカルのβ-開裂に取り組んでいるチームに加入し、β-開裂後に生じたラジカルのコバルト触媒を用いた不飽和化の研究していました。最初は収率が5%ぐらいしかなかったのですが、いろいろ工夫してチャレンジした結果、最終的に42%までは上げることができました。めちゃくちゃいろいろな光触媒を試したので、光反応の技術はかなり身についた実感があります。

山村◼️オックスフォード大での研究は論文発表前なので詳細は紹介できませんが、医薬品に使えるような新しい変換反応の開発を目指して、鳶巣研ではやったことのない手法でイミノホスホランという化合物の実験に取り組みました。実験の基本的な操作は一緒なのですが、条件の検討方法や装置の使い方といった部分で、これまでに知らなかった手法を学べた手応えがありました。

向井◼️マックスプランクでは、前任者の日本人留学生がやっていた研究テーマを引き継ぐかたちで、ビスマスジヒドリド(BiH₂)錯体の合成および単離に取り組みました。BiH₂錯体の単離と反応性調査を任されたのですが、-40℃以上では非常に不安定なため、1か月ほどは錯体を再現性よく合成するのに苦労しました。その後なんとか錯体の単離に成功し、留学中に論文投稿とリバイス実験を完了して最終的にJACS誌に掲載されました。運やタイミングに恵まれた部分もあるのですが、コルネラ研の一員として論文を発表できたことをたいへん嬉しく思っています。

イギリス料理は本当に◯◯かった☠️
白木◼️ ドイツの食べ物では、シュニッツェルという料理がめっちゃお気に入りでした。 トンカツよりもちょっと薄いお肉を薄衣で揚げてるんですが、サクサクして美味しいんです。肉料理では、シュバイネハクセという漫画肉みたいなのも食べましたが、表面は美味しかったけど中のお肉に味がなくて・・・。
ドイツのビールはすごく私に合っていたようで、あまり日本でビールは飲まないのにアーヘンではガブガブ飲んでましたね(笑)。


アーヘン工科大学では多くの留学生達が集う「自国料理持寄りパーティ」にも参加しました。私はお気に入りの、照り焼きチキンを持参しました。

向井◼️確かにシュニッツェルはサクサク美味しかったですね。あと、私は生ブタミンチの料理にも挑戦しました。味は独特でしたね・・・。ドイツビールも美味しかったです。


山村◼️イギリスの料理は想像通りで、お肉自体は普通に美味しいんですけど味付けがなんとも・・・塩すら使ってないんじゃないかっていうほど味がない(苦笑)。 付け合わせのポテトも味がしなくて・・。でもせっかくだからちゃんとしたイギリス料理レストランに行こうと思って現地の人に相談したら、即座に「絶対やめとけ!」って言われたので断念しました(笑)。

パブでビール飲んで、ミートパイとかフィッシュアンドチップスを食べてる分にはいいんですけどね。 なので外食時はほぼ毎回、中華料理か韓国料理を食べていました。
でも、スコットランド北部のエディンバラに行って、そこで食べた郷土料理はもうめちゃめちゃ美味しかったです。南と北で違うんでしょうかね?


白木◼️オフの日は、あんまり遠くの名勝地に行くことはなくて、アーヘンのすぐ隣のオランダのファールスという街にラボのメンバー達とゴーカートに乗りに行ったり、サッカー観戦やボルダリングでリフレッシュしていました。ラボ仲間はみんないい人で、ヒゲ面の人が多かったです。



(左からイタリア人、トルコ人、イングランド人)
私が留学中に滞在していた部屋はとても広くて快適でした。

意外なことにドイツでは電車の運行が非常にルーズで、遅延もするしたまにキャンセルがあったりして、酷い目に遭ったこともありましたね。
向井◼️ドイツはヨーロッパの中心にあるので、オフにはさまざまな国を訪れました。最も印象に残っているのは、チェコのプラハです。プラハ城はまさに「これぞお城」という壮麗さで、圧倒されたのを覚えています。ビールもおいしかったですね。また機会があれば、ぜひもう一度訪れたい街の一つです。

あと3人で会ったベルギーのブリュッセルも美しい街でしたね。留学前から「どこかで会えたらいいね」と話していたのですが、ヨーロッパで3人で会っているのは不思議な感覚でした。

私はマックスプランクから路面電車と徒歩で30分ほどのところに部屋を借りていて、家賃は12万円ぐらいでした。隣人が夜中に大声を出して困ったこともありましたが・・・今となってはいい思い出です(苦笑)。

研究室の仲間とは今でもお互いが論文を出したらおめでとうメッセージを送ったり、またドイツで会えたらいいねとかのやりとりはしています。

山村◼️休みにはイギリス国内とヨーロッパ各地をひたすら旅してました。




治安の良い日本と違って、昼間に堂々と鍵を壊してる自転車泥棒も目にしたこともありましたが、普通の人々はめちゃめちゃ親切でした。イヤな顔ひとつせず丁寧に写真を撮ってくれたり、道を訊いてもとても親切に答えてくれたり。
自分はイギリス人と日本人のハーフの方とルームシェアをしていたのですが、その方の友達の家でのホームパーティーに呼んでもらったりして、なんか意外と交友関係は広がりましたね。



ただ、イギリスネイティブの方の英語は聞き取りにくかったですね。研究室仲間の日常会話の速さについていくのも結構大変でした。単語同士をつなげてバーッと話されるんで。でも、研究に関しては毎日英語で議論しないといけないので、だいぶ成長できたかなと思います。
白木◼️私も英語で2週間ぐらいは苦労しましたけど、耳も慣れてきますし、返し方もわかってくるんで会話は全然問題なくできました。
向井◼️英語に関しては、最初の1、2週間は全く聞けませんでした。3ヶ月もすると耳が自然になれましたが、話す方はなかなか言葉が出てこなくて大変でした。
ヒゲも、研究も、コミュニケーションも!
白木◼️留学してまず変わったことはヒゲ面です。留学先の仲間の多くがヒゲ面だったので、イイなと思って、帰国後はヒゲ面でした。就活で剃っちゃいましたが・・・

研究面では、これまで扱ってきたケミカルリサイクルだけではなく、ケミカルアップサイクルにもチャレンジしたいと思っていて、留学で培った光反応の技術を活かせればいいですね。
向井◼️英語で積極的にコミュニケーションをとるようにしたいですね。
研究では、可視光照射下でのみ進行する酸化的付加反応を開発し、遷移金属触媒で見られる酸化的付加、挿入、還元的脱離のすべてを可視光で促進できることを示したいと考えています。さらに、このような可視光駆動型の反応を基盤として、触媒反応系へと発展させていきたいです。

山村◼️今後は効率重視の朝型研究スタイルで、ピラゾールを用いたアラインの新規重合法に関する研究を発展させます。博士課程論文では、アライン重合で得られた生成物を留学先で習得した不斉反応に用いる研究にも取り組む予定です。

留学。これだけはやっといて!
白木◼️英語力はなくでも大丈夫、伝えようとする気があればコミュニケーションは取れます。ラボメンバーからの誘いは断らずに仲良くなるのが、英語上達の近道かも。
向井◼️海外は外食代が高いので、自炊できるようにしておくのがベター。英語の日常会話もできる範囲でトレーニングしておくのがいいと思います。
山村◼️海外では積極性が大事。あと、留学先、お金、宿、飛行機の手配はお早めに!
