研究トピックス

マイクロ波分光で光触媒性能を超簡便に評価!

持続可能な社会の実現には、ほぼ無尽蔵に地球に降り注ぐ太陽光エネルギーの利用が有効です。これまで、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池に加え、光エネルギーを化学エネルギーに変換する光触媒の研究が世界中で進められてきました。中でも光を用いて水分解する技術は注目を集めています。
しかし、光触媒の性能にはその電子特性や電気特性に加え、粒径、表面形状、助触媒の物性、焼結温度、組成比など多くの因子が複雑に影響するため、高効率化には多大な時間と労力を必要としてきました(図1)。もし、光触媒の持つ本質的な性能と反応速度を決めている因子を速く簡便に評価することができれば、光触媒材料の開発と高効率化は飛躍的に進展するはずです。

大阪大学大学院工学研究科の鈴木肇特任研究員兼日本学術振興会特別研究員(ともに研究当時)と佐伯昭紀教授らは、光触媒の高速評価法として、マイクロ波分光法に着目。オキシハライド光触媒※1を評価したところ、信号の強度と減衰寿命の積が、光触媒による酸素発生速度と相関する指標となることを見いだしました。この手法により、ビスマス系のオキシハライド光触媒の最適な焼結温度※2を導いた結果、光触媒能を従来の約3倍に向上させることに成功しました(図2)。この酸素発生反応の量子収率※3は3%であり、固相反応で合成したオキシハライド光触媒の中では世界最高値を実現しました。

今回確立した手法によリオキシハライドの性能の高速予測・評価が可能になり、それら材料の合成条件までも高速に最適化することによって、高効率な水分解用光触媒の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、米国化学会誌「ACS Energy Letters」のオンライン版に “Photoconductivity?Lifetime Product Correlates Well with Photocatalytic Activity of Oxyhalides Bi4TaO8Cl and PbBiO2Cl: An Approach to Boost Their O2EvolutionRates”というタイトルで掲載されました。

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsenergylett.9b00793
図1 光触媒反応のイメージ(右)と活性に影響するさまざまな因子(左)
図2 マイクロ波分光評価による光触媒活性の向上
(a)マイクロ波信号強度×寿命の焼結温度依存性
(b)酸素生成速度の焼結温度依存性
オキシハライド光触媒2のマイクロ波分光評価を基に、光触媒活性を従来と比べて約3倍に向上させることに成功。酸素生成速度は、電子受容体として三価の鉄イオンを含んだ水溶液からの酸素生成速度を測定した。

本研究の詳細はこちら
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2019/20190618_1

研究グループ
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~saeki/cmpc/index.html

※1 オキシハライド光触媒
酸素とハロゲンを含む化合物の光触媒。酸ハロゲン化物光触媒とも呼ばれる。2016年に初めて水分解用光触媒として応用され、近年注目を集めている。

※2 焼結温度
混合した固体原料を反応させ、生成物に変換させるときの温度。固相反応では、数百~千数百度の温度を用いる。

※3 量子収率
入射した光子数の内、反応に利用された光子の割合。本研究での量子収率は外部量子収率(見かけの量子収率)ともいう。

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