塗るだけで高効率スピン偏極電流を発生させる
新しいキラル半導体高分子を開発
クリーンエネルギー技術にもつながる新たな可能性を開拓
応用化学専攻の石割文崇講師、大学院生(博士後期課程)のLi Shuang、佐伯昭紀教授らの研究グループは、キラルな半導体高分子[poly-(S,S)-ITDおよびpoly-(R,R)-IDT]を開発し、CISS効果※1により電流中の電子のスピンの向きを70%程度の効率(スピン偏極率)で同方向にそろえたスピン偏極電流※2を発生させる、スピンフィルター※3としての性質を持つことを見出しました(下図)。
この約70%というスピン偏極率は、キラルな半導体高分子の中では最高クラスの値です。このキラル半導体高分子は溶液を塗るだけで成膜できるため、さまざまな材料にスピンフィルターとしての性能を持たせてスピン偏極電流を発生させることができます。そのため、スピン偏極電流が有効とされる用途、例えば、酸素発生や酸素還元などのクリーンエネルギー技術につながる用途を高効率化できる他にも、次世代3Dディスプレイの発光素子として期待される円偏光を発生させる円偏光有機発光ダイオードの開発などでの活用が見込まれます。
本研究成果は、英国科学誌「Chemical Communications」に、8月23日に公開されました。
タイトル:Chiral bifacial indacenodithiophene-based π-conjugated polymers with chirality-induced spin selectivity
“不斉誘起スピン選択性を持つキラル二面性インダセノジチオフェンπ共役高分子”
著者名:Shuang Li, Fumitaka Ishiwari,* Scott Zorn, Kazuharu Murotani, Mikhail Pylnev, Kouji Taniguchi and Akinori Saeki
DOI:https://doi.org/10.1039/D4CC03292F
なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「自在配列」JPMJPR21A2、新学術領域研究「発動分子科学」JP21H00400、「水圏機能材料」JP22H04541、学術変革領域A「動的エキシトン」JP20H05836、「超セラミックス」JP23H04626, JP23H04619研究などの一環として行われ、大阪大学大学院工研究科 Scott Zornさん(博士後期課程)、室谷一晴さん(博士後期課程)、Mikhail Pylnev特任助教の協力を得て行われました。
※1 [Chiral(ity)-Induced Spin Selectivity効果, 不斉誘起スピン選択性] キラルな分子や物質に、電子スピンの向きがランダムな電流を通過させると、キラルな分子や物質のスピンフィルター効果により、通過後にスピン偏極電流が得られる効果。
※2 電子スピンの向きが一方向にそろった電流のこと。その偏りの度合いはスピン偏極率で表され、スピン偏極率 = (上向きスピン偏極電流値 ― 下向きスピン偏極電流値)÷(上向きスピン偏極電流値+下向きスピン偏極電流値) で表される。
※3スピン偏極電流のうち、片方の向きのスピン偏極電流の通過を妨げ、もう片方の向きのスピン偏極電流のみ選択的に通過させる性質のこと。
本研究の詳細はこちら
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2024/20240913_1