デンプンとセルロースから 高強度・高耐水性の海洋生分解性プラスチックを開発
いま問題となっている海洋ゴミ問題は主に廃棄プラスチックによるもので、多くのプラスチックが環境中で分解しないことが原因です。これまで日本で開発された海洋生分解性プラスチックはいずれも、ポリエチレン、ポリプロピレンといった既存のプラスチックより性質が劣り、価格も2倍以上で生産量が極めて少ないといった課題がありました(生産量:1万数千トン/年、プラスチック全体:3億トン/年(世界))。
このような現状を打破すべく、海洋ゴミ問題を解決できる安価かつ大量に製造できる海洋生分解性プラスチックの開発が社会的に強く望まれていました。
これに対して、応用化学専攻の宇山教授、麻生准教授らの研究グループは日本食品化工㈱と共同で、安価かつ地球上に大量にあるバイオマス資源であるデンプン※1とセルロース※2に着目し、これらの誘導体を巧みに複合化することで高強度のプラスチックシートを開発しました(図1)。

シートは透明で強度は汎用プラスチックの2倍以上でした(図2)。

デンプンの弱点である耐水性が克服できただけでなく、このシートは海水中に1か月浸漬すると分解が進み、シートには穴が開き、穴付近には菌類が多く見られました(図3)。これは海水中での優れた分解性を示しています。

デンプンは身近に入手できる安価な素材ですが、耐水性などの問題からプラスチック原料として積極的に用いられていませんでした。しかし、デンプン、セルロースといった多糖類同士の強固な相互作用を利用することで耐水性が向上するだけでなく、複合化により透明かつ高強度のシートが形成され、さらには海洋生分解性を示すことを明らかにしました。製造方法はシンプルであるため、今後、企業との連携による工業化プロセスの開発により、早期の実用化が期待されます。
今回の成果は、海洋ゴミ問題の解決に大きく資するのみならず、地球の物質循環やCO2削減に貢献するものです。すなわち、SDGsやCOP25等の世界的な提言を実現するものであり、日本政府主導の「ムーンショット(目標4:物質循環)」プログラムの方針にも合致します。
本研究の一部はNEDO先導研究プログラム/新技術先導研究プログラムの一環として行われました。
※1 デンプン
代表的な炭水化物(多糖類)であり、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子です。デンプンは植物が光合成によって実や根などの体内に貯蔵され、コーンやキャッサバ(タピオカ)などが工業原料として用いられます。デンプンは非常に安価であり、飼料作物から生産されます(工業用途と食品用途とのバッティングは無いと考えられています)。
※2 セルロース
多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子です。植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分で、天然の植物質の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物です。セルロースは水や汎用溶媒に不溶であり、熱可塑性を示しません。最近、セルロースナノファイバーが次世代機能材料として注目され、自動車への搭載をはじめ、多くの研究開発が活発に行われています。
本研究の詳細はこちら
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200305_01
研究グループ
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~uyamaken/index.html