研究トピックス

フントの規則を覆す研究成果が
「Nature」に掲載されました!

応用化学専攻中山研の相澤直矢助教と理化学研究所・北海道大学・山形大学の研究者による研究グループは、一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーが逆転した発光材料を実現しました。本研究成果はフントの規則に基づく常識を覆すもので、教科書を書き換える発見であるとともに、理想的な有機EL材料の実現に向けたマイルストーンになると期待できます。

1925年に提案されたフントの規則は、同一の電子配置において最大のスピン多重度を持つ状態が最低エネルギーを持つと予言しています。従って、スピン三重項励起状態はスピン一重項励起状態よりもエネルギーが低く、両状態のエネルギー差(ΔEST)は正であることが一般的に知られていました。

今回、共同研究グループは、理研の「スーパーコンピュータHOKUSAI Big Waterfall」を用いて、約3万5000種類の分子の理論計算を行い、このフントの規則に基づく常識を覆す負のΔEST(-11ミリ電子ボルト)を持つ有機発光材料HzTFEX2の開発に成功しました。負のΔESTに由来して、本材料の三重項励起状態は速やかに一重項励起状態、そして光子に変換され、その発光寿命はわずか217ナノ秒(ns、1nsは10億分の1秒)でした。

図. (a)HzTFEX2の分子構造と(b)さまざまな温度における発光強度の時間変化
       (a) 負のΔESTを持つ発光材料HzTFEX2の分子構造。
       (b) 温度を下げると、遅延蛍光寿命が短くなりました。
              これは、低温において発光が長寿命化する通常の有機化合物とは全く逆の性質です。

本研究により、負のΔESTを持つ発光材料の存在を世界で初めて示しました。本成果は、教科書の新たな1ページになり得る基礎科学として重要な発見です。さらに、持続可能社会を支える省エネルギーな有機ELディスプレイや照明の開発に大きく貢献することが期待できます。

本研究は、科学雑誌『Nature』の掲載に先立ち、オンライン版(9月14日付:日本時間9月15日)に掲載されました。

<タイトル> Delayed fluorescence from inverted singlet and triplet excited states
<著者名>Naoya Aizawa, Yong-Jin Pu, Yu Harabuchi, Atsuko Nihonyanagi, Ryotaro Ibuka, Hiroyuki Inuzuka, Barun Dhara, Yuki Koyama, Ken-ichi Nakayama, Satoshi Maeda, Fumito Araoka & Daigo Miyajima
<雑誌>Nature
<DOI>10.1038/s41586-022-05132-y

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築」の研究課題「励起状態の仮想スクリーニングによる革新的有機半導体の探索と実用」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(B)「励起一重項と三重項のエネルギーが逆転した次世代有機EL材料の開発」の支援などを受けて行われました。現在、本研究成果を社会実装につなげるべく、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)未踏チャレンジ2050の支援を受けた研究プロジェクトが進行しています。

本研究の詳細はこちら
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220915_1

中山研究室
http://www-etchem.mls.eng.osaka-u.ac.jp/

相澤直矢助教のwebサイト
https://www.n-aizawa.com/

2024/04/17 
【研究トピックス】

ホウ素の力でイオンを見る!
長波長側の光で陰イ...

 

2024/03/12 
【研究トピックス】

単一分子だけで異なる誘電応答性を示す結晶作成に成功
お椀型分子で省プロセス・省コストの物性制御が...

 

2024/01/09 
【研究トピックス】

イオンペア集合化によって固体常温りん光強度を増大
固体の発光強度を向上させる手法として応用...

 
閉じる
HOMEへ