研究トピックス

無秩序だけど揃ってる?
常識を覆す構造をもつπ共役ポリマーにより、環境にやさしい有機薄膜太陽電池の変換効率を1.5倍に向上

応用化学専攻の佐伯昭紀教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の尾坂格教授、斎藤慎彦助教、京都大学大学院工学研究科の大北英生教授らの共同研究チームは、発電材料であるπ共役ポリマーがアモルファスでありながら有機薄膜太陽電池(OPV)のエネルギー変換効率を高められることを発見しました。

カーボンニュートラルの実現に向けて、太陽光発電の導入量拡大は喫緊の課題となっています。有機薄膜太陽電池(OPV)は、溶液プロセスを使用してプラスチック基板上に製造できるだけでなく、軽量、フレキシブル、シースルーという特長を活かすことで、一般的なシリコン太陽電池では設置が困難な建物の壁や窓などの垂直面や、テントやビニールハウスなどに設置が可能で、環境にやさしいことも大きな利点です。しかし、OPVのエネルギー変換効率はシリコン太陽電池やペロブスカイト太陽電池よりも低く、エネルギー変換効率の向上が実用化に向けた重要な課題でした。

一般的にポリマーの薄膜では、ポリマー鎖が自己組織化により整然と配列した結晶相だけでなく、ポリマー鎖が複雑に絡まって配列していないアモルファス相が存在します。π共役ポリマーの結晶相においては、ポリマー鎖中の連結した複素芳香環の平面が同一平面内に揃う(平面性が高まる)(図1a)ことで、ポリマー鎖同士が近づいて配列するため(図1c)、電荷が流れやすくなりますが、アモルファス相ではポリマー鎖の平面性が低く(図1b)、ポリマー鎖同士も配列していないため(図1d)、電荷が流れにくくなります。

図1. (a)複素芳香環平面が同一平面上にある(平面性の高い)π共役ポリマーのポリマー鎖、(b)平面性が低いπ共役ポリマーのポリマー鎖、(c)π共役ポリマーの結晶相、(d)π共役ポリマーのアモルファス相、(e)PSTz2のアモルファス状態の模式図。平面性が高いポリマー鎖は剛直なため配列しやすいが、平面性が低いポリマーは柔らかいため配列しづらい。PSTz1は(d)の構造に相当する。PSTz2のポリマー鎖には、平面性が低い部分も含まれるが、大部分は平面性が高いと考えられる。

OPVでは、「アモルファス相においても電荷輸送性が高いπ共役ポリマー」を開発することができれば、結晶化させずとも高効率化が可能です。

図2. 本研究で開発合成したπ共役ポリマーPSTz1とPSTz2の化学構造。PSTz1は置換基としてアルキル基(青色ハイライト部分)、PSTz2はトリアルキルシリル基(赤色ハイライト部分)を有する。

本研究では、π共役ポリマーとして、同じポリマー鎖に分岐状アルキル基が置換したPSTz1とトリアルキルシリル基が置換したPSTz2を合成しました(図2)。薄膜全体としては完全なアモルファスでありながらポリマー鎖の平面性が高いという従来の常識を覆す構造により、 PSTz2はアモルファスポリマーでありながら結晶性ポリマーと同等のOPV性能を示すことが明らかとなりました。

本研究は、OPVの高効率化に向けて、新たな材料設計指針を示す非常に重要な成果といえます。また、アモルファス材料はフレキシブルなデバイスとの相性がよいことから、実用的なOPVの開発に向けても重要な成果です。

今後は、なぜPSTz2がアモルファスでありながらポリマー鎖の平面性が高いという特異的な構造を形成するのかについて解明を急ぐとともに、将来的には、結晶相とアモルファス相が混在する薄膜中のアモルファス相において、このような構造を形成するポリマーの開発を目指します。これが実現できれば、シリコン太陽電池に匹敵する変換効率の達成も期待できます。

これからも応用化学専攻の研究者の活躍にご期待ください!

本研究成果は、2023年9月21日(木)午後6時(日本時間)にSpringer Natureが発刊する科学誌「Communications Materials」にオンライン掲載されました。

タイトル:“Ordered π-conjugated polymer backbone in amorphous blend for high efficiency nonfullerene organic photovoltaics”

著者名: Masahiko Saito, Hiroya Yamada, Kakaraparthi Kranthiraja, Tsubasa Mikie, Akinori Saeki, Hideo Ohkita, Itaru Osaka.
DOI:10.1038/s43246-023-00395-y

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業(研究開発課題名:「革新的有機半導体の開発と有機太陽電池効率20%への挑戦」、研究開発代表者:尾坂格(広島大学 教授)、研究開発期間:令和2年11月~令和7年3月)の支援を受けて行われました。


本研究の詳細はこちら
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230921_1

佐伯研究室
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~saeki/cmpc/

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